「はい……。すみません……もうフサちゃんの所へ連れてってください……。」

2024040118:31

「はい……。すみません……もうフサちゃんの所へ連れてってください……。」

 

 

長旅で疲れたところにこれは精神的に堪える。入江は俯いてお願いしますと懇願した。こんなたじたじな入江を初めて見た三津は好奇の目でその姿を目に焼き付けた。

 

 

「着いたばっかなんやしもうちょっとゆっくりしてもいいんやない?ねぇ?」

 

 

文はにこにこと三津を見た。ここでのみんなの話が聞けるならまだ座ってたいと思う三津は頷いた。

 

 

「分かった……。で,文ちゃんは玄瑞からどのくらい三津さんの事聞いとるそ?」 https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2024/04/post-d7d60f.html https://besidethepoint.mystrikingly.com/blog/37c6da47e8c http://jennifer92.livedoor.blog/archives/35420697.html

 

 

そこは三津も気になっていた所だ。久坂の事だから変な事は吹き込んでいないと信じているが文にどう捉えられ,どんな印象を抱かれていたのか気になる。

 

 

「桂様が珍しく惚れ込んだ人がおるっていうのと吉田さんが横恋慕しよるって言うのとその子が可愛い妹やって言うのと……。」

 

 

「間違っちゃないが色々詰め込まれとるな……。」

 

 

どうせなら送られてきた文を全てここで広げてくれないだろうか。一枚ずつ確かめたい。「文さんは久坂さんからの便りに私の名前が書かれてるの見て浮気は疑いませんでしたか?知らん女の名前に嫌な思いは?」

 

 

「全然!浮気ならわざわざ書く必要ないし。桂様のお相手やって書かれてたからどんな人か気になって気になって。」

 

 

三津は文を嫌な気にさせてない事に安心した。まず不快に思っていたら家にも上げてくれないよなと自嘲した。

 

 

「主人は三津さんの幸せをずっと願っちょったんやけど……今幸せ?」

 

 

『流石久坂さんの奥さんでわやな先生の妹なだけある……。』

 

 

多分入江との二人旅の時点で何か感じてたのかもしれない。加えて入江が素直に桂を反省させる為と自白したからきっと気にかけてくれてたんだと思った。だったら真っすぐに答えないと失礼だ。

 

 

「それが分からなくなってもて。兄上にも迷ったら自分が何の為にどうしたいか考えるように言われました。でも今はそれが見出だせんくて……。」

 

 

「そう。それなら一旦その事は忘れましょう。じゃあそろそろフサちゃんに会いに行きましょ!」

 

 

文はぱんっと胸の前で手を叩いて三津の落ち込みかけた気持ちを断ち切った。

 

 

「みんな近所やけすぐよすぐ。」

 

 

さばさばとしている文に呆気に取られながらも三津は入江と文の背中を追いかけた。

 

 

「ここ吉田さん家。フサちゃーんおるー?文やけどー!」

 

 

文は慣れた感じで吉田家に入って行った。

 

 

『ここが吉田さんのお家……。』

 

 

本人が居ないからあまり実感は湧かないが吉田の生まれ育った家に来たんだと思うと変に緊張して来た。

 

 

「はーい文さんどうしたん?」

 

 

中から出て来た少女はまだあどけなさが残る子だった。

 

 

「フサちゃん覚えとる?入江さん。」

 

 

「っ!覚えてます!!兄上のご学友の!!」

 

 

会えた事に興奮し感激する姿はやはり幼いなと思ったが三津はその目元に吉田の面影を見た。

 

 

「良かった覚えてくれちょった。顔合わせたの数回しかないけぇ不安やったそ。ちょっと大人びたなぁ。」

 

 

入江は目を細めてフサの頭を撫でた。フサも嬉しそうに頭を差し出していた。

 

 

「フサちゃんこちら三津さん。」

 

 

文に紹介され三津は深く頭を下げた。

 

 

「私の妻です。」

 

 

「違います。」

 

 

「んふっ!」

 

 

入江の紹介に三津は瞬時に否定してそれを文が笑った。口を抑えながら笑い続ける文を入江はムスッとした顔で見た。

 

 

「三津さん……。あっ!あの三津さんですか!?兄上からの文で伺ってます!」

 

 

『あの三津とはどの三津でしょうか……。』

 

 

知らぬ間に名前が知れ渡っている。フサは興奮しながら三津の両手を握り目を輝かせて顔を覗き混んだ。

 

 

「兄上が私に贈り物をしてくれる度に添えてある文に会わせたい人が居ると書いちょりました!必ず家に連れてくるけぇ待ってろと。私の姉になる方だと!」

 

 

『何て無邪気な……。』

 

 

三津はフサの笑顔が眩しくて目を細めた。吉田の妹だからもっと静かで子供らしさの欠片もない子かもしれないなんて失礼な想像をした自分を殴ってやりたい。

 

 

「あっそうや……フサさんに……。」

 

 

三津はちょっとごめんねとフサの手をやんわり退けて背中に背負った風呂敷の結び目を解いた。