「私が喋ってるのに寝ちゃうの?冷たいなぁ。」
いい年の男がこれでもかと言うぐらいの甘えた声を出した。
その声は狡いと思いながら三津はぐっと堪えて狸寝入りを決め込む決意を固めた。
本当は甘えた表情をしてるかもしれない。それを拝みたい気持ちと物凄く闘っている。
「……そう寝ちゃうの。じゃあ私も休むよ。」
そう言って桂は三津の布団に潜り込んで寝たふりを決め込んだその体を抱きしめ,ご丁寧に脚も絡めて動きを封じた。
「ちょっと何してるんですか!これじゃ寝られないでしょ!」 https://mathew-anderson.mystrikingly.com/blog/28007167dcb https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2283559.html https://community.joomla.org/events/my-events/san-jinhadouzodouzoto-de-liwo-shouni-shun-fan.html
「何言ってるの眠れるよ。寧ろこっちの方が寝付きがいいんだ。温かいし柔らかいし疲れが吸い取られるんだよ。」
愛おしいと言わんばかりに頬ずりをされて三津は観念してされるがままでいた。
「悪いね。私は君と出逢った頃から君の事になると大人げないし自制も効かないみっともない男だ。」
「みっともないやなんて。」
それよりもやっぱり長州の人は物好きなんだな。それが素直な感想だ。
「私からすればもっといい女の人っていっぱい居てるのにって思うんですよ。」
「相変わらず謙遜するね。」
頭に顎を乗せて桂がくすくす笑うから吐息がかかり,三津はむずむずして身をよじる。
「謙遜やないんですけど。だって貰い手なくてお見合いさせられかけたし。」
「それは三津が彼しか頭になかったからだろ?だから周りに目を向けなかった。君に想いを寄せてた男はいっぱい居たと思うけど?あの店の客の中にも。」
その時三津は斎藤の顔を思い浮かべた。客ではないがはっきり好意を伝えてくれた一人だ。
「居た……んですかねぇ。……あっ。」
忘れていたがそう言えば弥一もそうなるのか。お客と言うか弥一の呉服屋が贔屓にしてくれていたんだった。それにこちらに好意を持ってくれていての見合いだった。断ったけども。
「誰か思い出したの?」
「はい,あの縁談をお断りした方……。弥一さんって呉服屋の若旦那さんは確かに好意を持ってくれてはったなと。」
「あぁ呉服屋の若旦那だったのか。どんな男か気にはなってた。」
その時桂の頭には呉服屋の若女将として働く三津を思い浮かべた。こんなにも容易に想像できるのはきっと三津に商人の妻の素質があるからに違いない。
自分で勝手に想像して胸が苦しくなった。三津にとって申し分ない縁談だったに違いないが,その時の三津には嫁ぐ気が一切なかった。
それでもあの時,断る方向に話を進めなければ何か変わっていただろうか。
「……その若旦那とやらが恋しくなった?」
「まさか!いい人でしたけど私じゃ呉服屋の若女将なんて務まりませんよ。」
「そう?甘味屋の常連さんが呉服屋の方も贔屓にして繁盛したかもしれない。」
「小五郎さんは私を呉服屋の若女将にしたいんですか?」
「まさか!出来るなら人目に触れさせたくもないね。」
どんな箱入り娘だと三津は笑うが桂からすれば七割方本気だ。
ある意味今も幽閉状態なのも否めないが三津が藩邸で楽しそうにしてくれてるのが救いだ。
「今の暮らしで改善してほしい事はないかな?」
「んーもう少し町に出る機会が欲しいですね。サヤさん達の買い出しのお手伝いとか出来たらって思います。」
『なるほどやはり外には出たいか。』
桂は小さく唸った。それを聞いて三津は眉尻を下げて桂の顔を見上げた。
「今の生活に不自由は感じてませんから気にせんとってください。」
「いいや,何か考えておくよ。」
とは言え三津が外に出れば十中八九問題に巻き込まれる。どうにか安心して出歩ける策は考えないといけない。
少し自分の世界に入って桂が思考をこらしていると今度は三津が小さく唸った。
「どうしよ……。」
「ん?どうかした?」
「明日が楽しみで眠られへん。」
腕の中でにっと笑うその顔に“あぁもう……”と吐息をもらした。
「二人で出掛けるのが久しぶりだから?」
「はい!」
それは私も楽しみだよと告げて小さく咳払いをした。本題はこっちだ。
「眠くなるように少し体を疲れさすのはどう?」
今度は桂がにっと笑った。三津は口を一文字に結んで耳まで真っ赤にした。
『お?この反応は?』
抱きついた時の反応とは違う反応を示した。これはもう一押し……したい所だがこちらばかりが求めるのもちょっと腑に落ちない。
けれども今の桂にそんな駆け引きをしてる余裕はない。最近は拒まれない方が珍しい。この機を逃してなるものか。
ここはがっつかないで慎重に丁寧に扱おう。
まずは優しく頭を撫でてそのまま指を滑らせ耳たぶをくすぐった。