いつも通り。受け入れて。
それだけで今日はいつも通りの仕事は出来ないなと悟った。
すでにいつも通りの仕事が出来てる三津じゃない事は,本人は認めないと言うか気付かぬふりをしているので何も言うまい。
そもそもの話に戻ると好きな人からのお誘いをあからさまに嫌な顔をするのはだいぶと失礼だ。
それに桂に求められるのは嫌ではない。それはずっと変わらない。
強いて言うなら新平はとても淡白だったと言えばいいか。
それに対して桂は大人の経験が濃くて刺激が強い。https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-82.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/add-a-blog-post-title https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2259006.html
『昨日もすぐ寝てまうほど疲れてはるんやしちょっとは癒やしになる事してあげんと。』
三津はぐっと手を握りしめて決意を固めた。固めたけれどまず伝えたい事がある。
今言うべきではないのは分かっている。それでも今じゃないといけない。
三津は手を伸ばして桂の頬に触れて妖艶な瞳をじっと見つめた。
ようやくその気になってくれたのだなと桂の口が弧を描く。
それと同時に三津の唇もうっすら開いた。
「小五郎さん,お腹空きました。」
それを見計らってたかのように三津のお腹がぐぅと鳴いた。
腹の虫を鳴かすつもりはなかった。だがこれで嫌で拒んでるのではないと分かってもらえただろう。
だが音を聞かれたのは不本意で徐々に顔は赤くなっていき,口はへの字に曲がりだした。
相変わらず雰囲気を壊すのが上手いなと桂は笑う。
「ただでさえ細いのにこれ以上飢えさす訳にはいかないね。」
「すみません,あまり身にならなくて。」
三津は自分の胸に視線を落とした。
「いやそう言う意味で言ったんじゃなくて……。」
寧ろ大きさも形も好みだと言いそうになって口を閉じた。じっとりした目で睨まれて口を利いてもらえなくなるのが目に見えてる。
「小五郎さんそう言う時は分かりやすい顔しますね。」
「どんな顔だい?」
結局じっとりした目で見られてしまった。引き攣る目元で何とか笑みを作ってみる。
「重要視してるのは大きさじゃなくて……。って考えてる顔と言えば分かります?」
『だからどんな顔だ。』
鼻の下が伸びてるとか目尻が下がってだらしないならまだ分かる。
でも考えてる事が筒抜けだったようで,三津からすればそれが判別出来るだけの表情だったんだろう。
これ以上読まれまいとキリっとした涼しげな目元を作ってみせた。急に凛々しく整った顔が出来上がって三津はまたふっと笑った。
桂の表情が豊かでころころ変わるのが新鮮だ。
「とりあえず膝から下りていいですか?」
ずっとおあずけ状態なのが辛いと視線はずっと朝餉を見ている。
「下りなくていいよ。食べさせてあげる。」
桂は逃すまいと左腕を三津に巻き付け右手は箸を持ち沢庵を摘んだ。
「せっかくまだ温かいんで出来れば温かいうちに食べたいんですけど。」
口元に運ばれる前に三津は冷めた目でぴしゃりと断った。
「つれないな……。前なら恥じらいながら上目遣いで口開けてくれたのに……。時の流れは残酷だね……。」
小さく息を吐き憂いをおびた目で寂しそうに三津を見下ろした。慣れというのは恐ろしいねと吐き捨てていじけだした。
「……一口だけですからね。」
三津は小さく口を開けた。桂はきゅっと口角を上げて摘んでいた沢庵を咥えた。
「え?」
予想外過ぎる行動に三津は硬直した。にんまり笑った桂の顔がすぐそこまで迫っている。
「今後は絶対やりませんからねっ!」
三津は両手で桂の顔を挟んで咥えられた沢庵を自らの口で奪い取ってすぐさまそっぽを向いた。
ぱりぽりと噛み砕く音を桂は満足げに聞いていた。
『ホンマに何考えてるんやら。』
何故こんな辱めを受けなければならんのだ。三津は唸り声を上げながら屋敷内の拭き掃除をしていた。
恋仲と言うより玩具のような扱いになってるように思えて解せぬ。
眉間に皺を寄せ唸り声を上げているものだから機嫌が悪いと思われて有り難いことに誰も近寄っては来なかった。
「三津さん!きりのいい所でちょっと休みませんか?」
アヤメの明るい声に三津の眉間の皺が消えた。
もう終わりますと笑顔で答えていそいそと雑巾を片付けに行った。
台所でお茶を飲みながら三人で立ち話をするのは一日の中で一番楽しみにしてる時間かもしれない。
軽い足取りで台所へ行くとサヤがすでにお茶を用意してくれていた。
「三津さん今日は朝から桂様にからかわれたんですか?」
サヤににっこりと笑顔を向けられ苦笑いを浮かべた。相変わらずの鋭さに言葉も出ない。
「何で分かるんですかね。」
その時三津の脳裏にふと疑念が浮かんだ。
まさか同じ経験があるから分かるのではないか?と。