「それならあと数日家におってください。高杉さんには私から一報送ります。女の寂しい独り暮らしやけぇしばらく家に滞在してもらうと。」
「あー!それいいですね!フサもその方が嬉しゅうございます!」
文の頭の回転の速さと決断の速さに三津は目を見張った。流石みんなが師と仰ぐ先生の妹で久坂の妻なのだと改めて思い知った。
「三津さんももうしばらくゆっくりして考えまとめたいんやない?」
「そうですねぇ……。」 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-88.html https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2024/04/post-55dba5.html https://besidethepoint.mystrikingly.com/blog/8ea516a9973
「ですって。入江さん異論は?」
「……ないとしか言わせんくせに。」
「んふっそうですけど何か?」
「本当に敵わん……。」
三津は簡単に入江を言いくるめた文が格好いいと思い惚れ惚れした目で見つめた。
「そしたら急須は帰る前に買いましょ。知り合いの所で安くしてもらえばいいし。」
その日はそのままフサを家まで送り届けてから文の家に戻った。
三津は文と同じ部屋を,入江は久坂と松蔭先生の位牌の祀られた部屋を借りた。
食事の時も文はよく喋りよく笑った。それにつられて三津もよく笑い文とのお喋りを存分に楽しんだ。まだまだ話したい事はあったけど旅の疲れが溜まっていた為ぱたりと寝てしまった。
文は穏やかな表情で三津の寝顔を確認してから入江の元へ行った。
「入江さん起きてます?」
文が呼びかけると襖が開いた。
「一杯どうですか?」
盆に乗せられた徳利と盃を見て入江は頷いた。二人は向かい合って座りまず献杯をした。
「入江さんが生きて帰って来てくれて本当に良かった。あの人の側に最後まで居てくれた入江さんは京で主人が生きてた証やけ。」
「そんな大層な……。」
「重要な事です。女はいっつも待たされてばっかで最期は置いて逝かれる。理不尽やわ。」
「男は馬鹿やけぇ……。」
これは切腹した事を根に持っているのだろうか。
文は分かってくれると久坂は言ったが理解はしていても納得はしてないようだ。やっぱり女はみんなそう思うんだなと思いながらぐいっと酒を煽った。
「本当に。三津さんをそんな馬鹿な男の妻にしてええもんやろか。」
「桂さんを馬鹿呼ばわり出来るの文ちゃんぐらいやな。」
「入江さんもその馬鹿に入っちょる。」
入江は厳しいなぁと笑い,文はふんと鼻で笑って徳利を傾けた。
「でも私は武士として死ぬより三津さんの傍で生きるのを選んだ馬鹿やけぇ武士としてはあの時死んどる。今生きとるのは女に現抜かしたただの馬鹿な男や。」
入江は盃の酒を揺らした。「そっちの方が女として冥利に尽きると思うんやけどね。主人は武士の誇りを重んじた人やから仕方ないけど。」
「それな。私は三津さんに面倒臭いって言い切られたそ。武士の誇りや何やって。切腹するよりどんな不格好でも生きとる方が良いって。」
「私でも思うけどあんな兄見て育ったし理解と言うか……諦めやね。もうそこは変えられんのやって。」
文はふっと笑って並んだ位牌を見つめた。
「正直実感湧いてないんよ。兄の時も今回も亡骸見た訳やないから報せも寄越さんとどこかで生きとるんやないんって思うそっちゃ。
長い間家を空けるなんて普通やったし,ただこれからはあの人からの便りは届かんのやなってぐらいで。」
入江も並んだ位牌に体を向けてしばらく無言でそれを眺めた。
「でも私は主人と一緒になれて良かったと思っとる。これからは主人に恥じん生き方するだけやけぇまずは三津さんの幸せを見出しちゃらんと!」
「女は強いなぁ……。」
「当たり前や。男がおらな子は生せんけど最後に命懸けで産み落とすのは女よ?男はみんな女の腹から出て来とるやろ。男が女を守るや言うけど実際は女が男に守らせてやっとるそ。」
入江は喉を鳴らして笑った。こんなの敵うはずない。
「喋り過ぎたけぇ私も寝ます。寝込み襲わんでね。」