「見ろやすみ!三津のこの寂しそうな顔!こんなんされたら帰れんやろが!」 行かないでとは言わないが,寂しくて堪らない。それを必死に堪らえようとする哀愁を帯びた顔にすみは罪悪感に襲われた。
「じゃあ帰らんとここに残ってさっさと子供作りぃや。」
「それはまだ早いそ。」
「じゃあさっさと伊藤さん連れて帰り。三津さんも今日は仕事行かんにゃいけんのやけぇ。」 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-87.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/dfdb2240a1b https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2525080.html
文にまでそう言われたら返す言葉もない。今度は入江の方が帰りたくない気持ちを表情に出して三津を見つめ返した。
「ほら。余計名残惜しくなる前に帰れ。」
文とすみは二人が余計に互いに恋い焦がれるようにわざと雰囲気を壊した。
これで三津が入江をより恋しいと思って自分は入江に恋してると思えばいいのだ。
玄関を出ると伊藤が居心地悪そうに待っていた。そりゃそうだ。元嫁が不機嫌な顔でじっと睨んでくるんだから。
「伊藤さんもお気をつけて……。皆さんにもよろしくお伝えください。」
三津がぺこりと頭を下げるのを伊藤は少しにやけた顔で見ていた。
「おいこら女好き。やらしい目で三津さん見んな。」
すみのどすの利いた声にすぐさま表情を引き締めて前を向いた。
「向こうに着いたらまた文を書く。待っちょって。」
「はい,待ってます。」だが勘のいい一之助は三津の言葉に何かあると察知した。
「私と九一さんは何?そこまで言われると気になるんやけど。」
えへへと笑って誤魔化そうとする三津に一之助は間を詰めた。
「あっ!姉上ー!迎えに来ましたー!」
ちょうどいい所でフサが満々の笑みで駆け寄ってきた。その後ろを文が手を振りながら歩いてくる。
「遅いけぇ帰って来るの渋っとるんかと思って迎えに来たんやけど。邪魔やった?」
文はきゅっと口角を上げて一之助を見た。
「別に。三津さんが帰るの渋っとるんは確かやけどな。話せんことがあるみたいやで。」
「だから違いますって!もぉ!」
三津は顔を真っ赤にして余計に話がややこしくなると地団駄を踏んだ。
「でも何か俺に言えん事あるのも確かやろ?」
「それは……。」
一之助にじっと視線を向けられて三津はしどろもどろになりながら文を見た。
「あー……ちょっと話せば長くなるというかややこしい話やけ気になるなら一緒にうち来て。」
じゃあ帰ろうかとくるりと踵を返した文の後をフサと三津がついて歩き,少し戸惑いながらも一之助もついて行った。
家に帰るとすみが夕餉の支度をして待っていた。
「お帰り〜。何なん?一之助さんお持ち帰りして来てどうする気?一之助さんもご飯食べる?それとも呑む?」
急な訪問にもすみは平然と我が家のように振る舞った。
一之助も女子四人の家に男一人上がり込むのは気が引けたが,文がどうぞどうぞと中へ入るよう促すので表情を強張らせながらお邪魔した。
「じゃあとりあえず何で三津さんが萩に来たか本当の理由話さんとね。」
「あれバレたん?」
「三津さん嘘つけんからねぇ。それに私が作った嘘やけん三津さんが合わせ続けるのも無理あるやろ。」
文とすみのやり取りに何が何だか分からない一之助は呆然と上座に座っていた。
「嘘?何が嘘なん?」
一之助が三津に問いかけると苦笑しながらすみませんと謝られた。
「九一さんと私が恋仲なのは嘘です。私の恋仲は別の人やったけど……。喧嘩別れしてここに逃げて来ました。
長州の人と深く関わってるのが幕府側に知られてるんで京には戻れんくて……。」
「恋仲やない?でもあの雰囲気誰が見たって……。」
店に現れた入江が見せたあの顔は心底三津に惚れている顔で,三津もそれに応えているように見えたのに。
「入江さんと三津さんの関係もまた特殊でね。二人にしか分からん間柄なんよ。」
文の補足にそれでも信じられんと言う顔で三津を見ていた。
じゃあ本当の恋仲は?