「それだけでも西郷との会合に集中出来る。

2024041123:45

「それだけでも西郷との会合に集中出来る。ありがとう晋作。」

 

 

桂は腰を上げて邪魔したねと広間を出た。桂の足音が聞こえなくなってやっと広間はピリピリした空気から解放された。

桂はその足で入江の元へ向かった。

 

 

「九一。少しいいか。」

 

 

声をかけると静かに障子が開いてどうぞと招き入れられた。

この部屋に来るのも約一月ぶりか。桂はすっかり三津の気配がなくなった部屋を悲しげに見渡した。

 

 

「特に話す事はないですが?」 https://debsyking786.livedoor.blog/archives/4672508.html https://johnsmith786.zohosites.com/ https://carinacyril.livedoor.blog/archives/2542435.html

 

 

白々しい態度の入江の正面に桂は正座で姿勢を正した。

 

 

「お前は結局どうしたいんだ?」

 

 

「何の話ですか。」

 

 

主語がないんで話が見えませんねぇと嫌味ったらしく言った。

 

 

「三津の事だ。この先どうするつもりだ。」

 

 

「ずっと言ってます。私の願いは三津の幸せ。

私が幸せにすると自信を持って言いたいところですが……私はそんな器じゃないと思っていました。

でもこうなった以上腹を括ります。

奇兵隊を抜けて三津を迎えに行きます。妻にして生涯を共にするつもりです。」

 

 

二人はしばらく無言で互いを見合った。久しぶりに向き合ったのだから言いたい事は言わねばなるまいと入江は話を続けた。

 

 

「貴方は本当に三津の幸せを願ってますか?もし心の底から願っているなら,もう忘れてやって下さい。

三津は貴方との再会など望んでない。望んでるのは平穏な生活です。貴方はそれを叶えてやれますか?ここまで巻き込んでおきながらあの子に何を与えてやれましたか?」

 

 

目を背けたくなるような言葉を投げられたがここで目を逸らす訳にはいかない。桂はそれを受け止めた。「君の言う通り……私は何も与えてやれなかった。傷しか残してない……

それでもこの先三津の平穏な暮らしを守れるのは私だけだ。彼女を妻に迎えるのはこの私だ。」

 

 

桂がそう言い切ると入江はふっと笑みを浮かべた。

 

 

「手遅れだとは思いませんか?」

 

 

「思わない。だからどんな手を使っても三津は私の妻にする。」

 

 

「どんな手を使ってもって……。」

 

 

土方のような男に成り下がるつもりかと嘲笑った。しばらく会わないうちに落ちぶれたなとも思った。

それでも桂は凛とした表情のまま入江と向き合っていた。

 

 

「私は三津の気持ちも取り戻す。」

 

 

それだけ言うと桂はすっと立ち上がって部屋を出て行った。少しの間呆然としていた入江だが喉を鳴らした後に声を上げて笑った。

 

 

「何なん。どんな手でも使うって。桂さんの力使われたら私手も足も出んわ。……そうや文書かんと。」

 

 

入江はさてどうしたもんかとにやつきながら墨をすった。

 

 

桂は阿弥陀寺を出る手前で幾松に呼び止められた。

 

 

「ねぇ私の事はどう責任取ってくれるん?桂はんがどうしてもって力尽くであんたはんのモンにされたはずやけど?」

 

 

「どうすれば納得するんだい?」

 

 

「そうねぇ。お三津ちゃん忘れて私を奥さんにしてくれたら。」

 

 

「それは無理だ。仮に君を形だけの妻にする事は出来ても三津を忘れるなんてあり得ない。」

 

 

「そんなん分かってるわど阿呆。私かてお三津ちゃんと重ねられながら抱かれるなんて御免やわ。」

 

 

「じゃあいっそ刺し殺すかい?」

 

 

「罪人にもなりたないわど阿呆。二人の結末に決着ついたら私は京に戻ります。

私は唄や三味線教えたりで生計立てられるし。

でもねぇこの私を捨てたんやから絶対二人には一緒になってもらわんと捨てられた私が恥なんよ。分かる?

やから絶っ対お三津ちゃんを奥さんにして。それで最後の最後に嫌がらせさせてもらうから。」

 

 

幾松は背筋も凍るようなそれはそれは綺麗な笑みを作った。

 

 

「嫌がらせの内容にもよる……。」

 

 

大した事じゃないわよとからから笑う幾松に桂はじっとり疑いの眼差しを向けた。

 

 

 

 

 

その頃文は部屋で一人,紙の束を手に深い溜息をついていた。

 

 

『あなた,兄上……。周りは拗らせた奴ばっかで私の手には負えません……。何か知恵を貸していただけませんか……。』

 

 

自分でも何が正しいのか分からなくなったとまた溜息をついた。

その時廊下からお風呂いただきました!と三津の明るい声がして,手にしていた紙の束をすぐに箪笥の引き出しの中に隠した。